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研究ガイド[6]卒論口頭発表のしかた

ここでは,卒論の発表のしかたについて簡単に説明します.卒論の成績にとって発表は重要です.従来はほとんどの人が優でしたが,最近少なからず良や可の人がでてきました.卒業はできますが,優でないと,将来思いがけないことで不利益なことが生じる可能性があります.

6.1 発表の意義

研究成果の発表の仕方には,論文だけによる場合と,論文+口頭発表による場合があります.皆さんが卒論で研究したことや勉強したことは,すべて卒論に書いてあるハズです.読めばわかるものを,どうして発表する必要があるのでしょうか? その答は簡単です.残念ながら,審査する教官のほとんどは,卒論を読まないからです.読むということは,相当の時間をとられますから,自分が興味を持つ論文以外は,読まないのが普通です.おそらくちゃんと読むのは,指導教官と若干名の人だけでしょう(注1).また,就職後には,これだけの東大の教官の前で発表することも,まずないでしょう.

そのため,せっかく研究したものを,他の人に知らしめるために,発表は非常に重要です.

それから,社会一般に,自分の考えを提案したり,成果を人に報告するなど,人前で発表する機会は非常に多く,しかも,それがその人の仕事の成功の鍵をにぎる場合が多いのですから,この際ちゃんとした発表をやっておくのは将来に大変役に立ちます.

6.2 発表のポイント

私の知っている先輩には,発表のうまい人が多いのですが,皆さんも知っている先生の中では,吉川前総長がダントツです.もともとお話しの上手な方で,しかも卓越した内容があるからなのですが,それに加えていつも発表を大変工夫されています.

自分のやったことを淡々と話しても,もし誰も聞いてくれなかったら,発表したことにはなりません.いかにして印象づけ,アピールするかが重要です.

6.2.1 わからせる

『あいつは,何をしゃべっているのかわからん』というのが最悪です.そのためには,

  • 話を簡潔にする.
    以下の点については,明確に述べる.
    背景: 問題の背景や動機
    問題: どのような問題を対象としたか.
    方針: どのような方針でアプローチしたか.
    手法: どのような方法で解いたか.
    結果: 問題に対して有効な結果を得たか? 未解決の部分は?
  • ストーリーを作る.
    上の各項目を押えながら,発表全体として起承転結のあるストーリーを考える.

6.2.2 ひきつける

笑わせたりする必要は全くありませんが,発表をattractive/impressiveにすることは必要です.そのためには,十分準備して,発表の内容を吟味し,さらに滑らかに発表できるように練習しなければなりません.

6.3 発表準備

6.3.1 OHPの枚数やビデオの長さ

まず,発表の素材であるOHPやビデオを用意する.15分の発表であると,OHPは12枚から最大でも20枚です.ビデオを使うのは大変効果的ですが,間延びしたビデオは逆効果です.よく編集をしましょう.長さは普通1分から2分,最大でも3分でしょう.また,ビデオを流したり止めたりを繰り返すと操作時間が取られることを考えておきましょう.なるべくまとめて見せるのがよいでしょう.

6.3.2 出だし

発表の出だしは,特に重要です.いろいろなスタイルがありますが,OHPの1枚目と2枚目は,次のようにする場合が多いでしょう(アメリカでは特にこれが多い).

1枚目: タイトル,発表者名
2枚目: 発表の構成

1枚目では,次のような発表を行なう.

学生証番号XXXXの鈴木宏正です.これから『14号館引越しにおける家具の最適計画』について発表します.

続く2枚目のOHPは,およそ次のようなもので,

発表の構成

  1. 家具の最適計画問題とは.
  2. 14号館環境での家具配置
  3. 最適計画アルゴリズム
  4. システムの試作
  5. 結論と展望

このOHPをプロジェクターに載せながら,『まず,発表の構成について示します.』と言い,以下のような説明をします.

本研究では,研究室における家具をどのようにして最適に計画するかという問題を扱いますが,その問題の特徴などについて,最初に説明いたします.本研究の対象とします14号館という建物の教官研究室は,部屋の形が細長く,しかも窓際にはエアコンが設置されているという特殊性があり,一般の最適化手法は適用できません.そこで,この第2項目で(注2),この問題について説明し,次にそのために開発いたしました最適計画アルゴリズムについて説明します.さらに実際に計算機上に試作したシステムと,それによる実行結果を示します.最後に結論と展望について述べます.

6.3.3 OHPの書き方

OHPを書く上での注意すべきことには,次のようなものがあります.

  • タイトル・箇条書
    各OHPには,タイトルをつけます.また,文書をずらずら書くのは,あまり関心しません.箇条書・体言止めのスタイルがシマリがあり,しかも見易いのでよいと思います.
  • 最大10行
    OHPを縦に使った場合,行数は最大でも10行程度に納めるべきです.それ以上になると,ゴチャゴチャして,しかも字が小さくなるので読んでもらえなくなります.
  • 話すことは,書いてある.書いてないことは,話さない.
    話している内容に沿って,重要なキーワードはすべて書いてあることが大事です.聞く側として一番辛いのは,書いてないことについてベラベラとしゃべられることです.
  • 視覚的に分かりやすく.
    文字だけでは訴える力が弱いです.図やグラフを活用する必要があります.
  • 大事なことはちゃんと書く.
    よく発表では数式は使わない,などと言う人もいますが,学術発表は専門家が相手ですから,私は重要な式は含めるべきだと思います.ただ,式を書きっぱなしするのではなく,その変数や項に対する注記を入れたり,図と組み合わせて説明したりする必要があります.
  • お飾り
    最近,OHP作成ツールが発達して,カッコ良いOHPが作れるようになってきました.その中でも,OHPに自分の名前や会議の名前を入れる人が増えてきています.名前や研究題目は入れた方がよいと思いますが,会議の名前や日付などは入れないほうがよいと思います.後日,他のところでそのOHPを再度使うときに,『あいつは,他で発表に使ったOHPを流用した』ということが明らかになってしまいますから.
  • 2度使うOHP
    OHPの順序は,当然発表の構成に従うことになります.2度同じOHPが必要な時は,コピーしておきます.一度使ったOHPをゴソゴソと探して,また使うなんてことは,トラブルの元です.

6.3.4 話す内容

OHPのおおよその案を作ったら,今度はしゃべる内容について吟味してゆきます.

  • 準備のしかた
    1. まず,下書きしたOHPを使って,とりあえず一回しゃべってみます.どうも話しにくい時や,極端に時間が合わないとき,話とOHPと整合しないときは,OHPを修正します.そして,修正したOHPを使ってもう一度しゃべって見ます.これを,何回かやると,話す内容とOHPが収束してきます.ほぼ内容的にも,時間的にも満足がいったら,次のようにして他の人に聞いてもらいます.
    2. だれかに時計で時間を測ってもらいながら,一度通して発表してみます.時間は,各OHPを何分何秒後に説明しはじめたかを記録してもらいます.テープレコーダーやビデオに記録するのもよい方法です.そして,聞いてもらったひとから発表についてのコメントをもらいます.
  • オーラルテキスト
    このようにして発表内容が固まったら,話す一言一句を文章で書き出します.これは面倒のようですが,オーラルテキストと言って,重要な発表をするときには,社会でも日常に行なわれてる方法です.
    卒論の場合,15分という時間をキッチリと守って,しかもその中でできるだけ効率よく話すには,オーラルテキストは絶対に必要です.例えば次に話すことを考える度に『アー』とか『ウー』とか言っていると,それだけで発表時間の内の1分くらいは優に取られてしまいます.
  • 時間を守る.
    発表時間は15分ですから,15分±5秒で発表を終るようにします.これは難しそうですが,オーラルテキストをちゃんと準備して練習すれば必ずできますし,多くの学生がそのようにしますから,できないと逆に目立ちます.卒論発表の場合,制限時間を越えた時は,発表の途中でも強制的にやめさせられます.
  • OHPとOHPの間
    意外に重要なのが,OHPとOHPのつなぎです.あるOHPの説明から,次のOHPに移る時には,聞いている人が,次のOHPがどのようなものか,そこで何を話そうとするのかが,ある程度予想がつくと,聞いていて気持ちがよいものです.そのためには,例えば,次のようなつなぎの言葉を入れます.

    以上××について説明しましたが,次に○○について述べます.
    この例では,パラメータを固定していましたが,では,それを変えるとどうなるでしょうか?
    では,結論に移ります.

  • 敗者復活戦
    聞いている人の中には,発表の途中で内容が十分に理解できない人,あるいは発表の速度についていけない人がいます.そのまま発表を続けると,この人たちにフラストレーションが溜って,自分の理解力を棚に上げて,ついには『発表が下手だ』といった評価を受けます.そこで,発表の中に2箇所くらい,この人たちを救う敗者復活の場を設けます.そのためには,そこまでの発表を一言二言でまとめて,次の話に入れば良いわけです.そうすると,そこまでの発表が分かっていない人でも,そこからもう一度発表をフォローしようとするかもしれません.例えば,次のような簡単なまとめをします.

    以上のように,××の理論を用いると○○についての計算ができることを示しましたが,次にその理論を実際に△△の問題に適用する方法について示します.

  • プラス思考
    プラス側の発想でものを言うことが大事です.つまり,欠点をつくような,足を引っ張るような言い方はしないということです.もちろんあくまでも原則です.例えば,研究した方法にはうまくいく場合と,例外的にうまくいかない場合がある時,

    本手法は,このような場合には適用できません.

    と言うよりは,

    本手法は,例外を除き適用可能です.

    というような言い方をします.

6.4 いよいよ発表

6.4.1 礼儀

研究発表は,基本的には『聞いてもらうもの』です.決して『聞かせてやる』ものでは,ありません.ですから,聞いてもらうための最低の礼儀は守る必要があります.

  1. 遅刻しない
  2. きちんとした服装
  3. おじぎ・挨拶
  4. 言葉使い

もちろん,特別なことは必要ありません.

6.4.2 読むか,話すか

オーラルテキストがあるので,基本的には,それを『読み』ます.原稿を読んでいるような発表は好ましくない,という人もいますが,つっかえつっかえの下手クソな発表よりは,『読む』発表の方がはるかに高い評価を得ます.そして,十分に練習してあれば,『話す』ように読め,アドリブをいれることも可能です.

また,大きな声で話すことも,当たり前のようですが,忘れがちな点でもあります.

6.4.3 立つか,座るか

普通,学会では立って発表します.卒論では,椅子に座って発表することができる場合もあります.これは,会場のセッティングによります.立って発表する時には,聴衆から,自分の顔と胸が見えていることをチェックします.よく,OHPスクリーンを向いて発表する人がいますが,これは最悪です.特に指し棒でOHPスクリーンを直接指す時には,指し棒を右手に持つなら,聴衆からみてOHPスクリーンの右側に立ちます.理由は左側に立つと,指し棒で指す時に,聴衆に背中を見せることになるからです.聞いている人の反応を見ながら訴えかけるように発表します.

6.4.4 自信をもつ

自分の発表する内容に対して自信を持つことです.こちらの不安は,聞き手に伝わり,聞き手はもっと不安に,そして懐疑的になります.自分がやった成果ですから,それを堂々と発表しましょう.

6.4.5 司会

発表会には司会がいます.司会が『発表を始めて下さい』と言ったら,発表を開始します.同様に,発表が終ると,司会が『では質疑応答に入ります』のように言って,質問の時間になります.発表者自身が『質問のある人はどうぞ』などと言ってはいけません.

6.4.6 OHPの操作技術

OHPは,発表順に重ねて,箱などに入れておきます.OHP用紙が入っていた箱が最適でしょう.ハーフポケット式のクリアファイルフォルダーなどを使う人も多いのようですが,枚数が限られているときは,箱のほうが実用的だと思います.

箱にもフォルダーにも入れずに,OHPをそのまま机の上に重ねて置いて発表する人がいますが,これは大変に危険です.それは,OHPプロジェクターの冷却FANからの風や,机が傾いていたりして,OHPが床の上に散乱することがあるからです.そうなったら発表はメチャメチャです.

箱の蓋は,発表の終わったOHPを入れておくのに使います.一枚終るごとに,またきちんと重ねて蓋に入れていきます.焦ってぐちゃぐちゃと机の上に置かないことです.急がずに,ちゃんとOHPを整理します.しつこいようですが,これが意外に大事です.これをやっておけば,発表後の質問に答えるのにOHPを使いたい時,必要なOHPがすぐに取り出せます.

また,各OHPの間には白い紙を入れておくのがよいでしょう.白い紙を入れないで多数のOHPを重ねると,OHPの後ろに,下のOHPの文字が透けて見えてしまい,それぞれのOHPの文字を読むことができなくなります.そして,OHPを探そうとすると,一枚ずつ天に透かして見る羽目になります.

次に,プロジェクターにOHPスライドを載せますが,さかさまに置いたり,裏返しにおいたりしてアタフタしている人をよく見かけます.万国共通なのは,「自分が見て見やすいように置く」ということです.そうすれば,スクリーンに正しく投影されます.(最近は少なくなりましたが,スライドの場合は,スライドを自分がみて正しい姿勢にし(つまり上下左右が正しい姿勢),その後上下反対になるように180度回転してからスライドマガジンに入れます.つまり,逆さまにして入れます.これも万国共通です.)

OHPスライドがスクリーンの適当な位置にちゃんとくるように,しっかりと置きます.一般に,少し高めに置いた方が聴衆にとって見やすくなると思います.特に大きめの部屋の時には十分注意して下さい.

何らかの理由で,OHPスライドが滑って動いてしまうときがありますが, 文鎮になるような,手持ちのもの(例えば,筆箱,携帯電話など)で 固定します.適当なものが無いときには,座長(司会)に,何か文鎮を 貸してくれるようにお願いします.

次に話に沿って,指示棒などでOHPを適切にポイントします.これは,6.4.2で示したように,状況に応じて,スクリーンの上でやってもよいし,OHPシートの上でやってもよいでしょう.特に座って発表する場合には,OHPスクリーンが遠いところにある場合は,スクリーンに届かないので,OHPシートをペンなどで指すことになりますが,当然指先もスクリーンに投影されますから,緊張で指先がプルプルと震えていたりするとちょっと恥ずかしいかもしれません.落ち着いてポイントしましょう.最近はレーザーポインターを使える場合も多くなってきましたので,遠いスクリーンでも指示ができるようになりましたね.

発表が終わったら,指示棒やポインターは,ちゃんと元の場所に戻しましょう.次の人が困りますからね.(私は my pointer を持ち歩くようになりました.)

6.4.8 オーラルテキスト原稿の扱い方

オーラルテキストは手に持ったり,机に置いたりしますが,OHPの操作などをしているうちに,どこまで読んだか分からなくなってしまいます.各OHPごとにページを分けて印刷しておき,OHPを取り替えるときに,同時にオーラルテキストもめくるようにするのが良いでしょう.PowerPointなどでもそのような印刷ができますね.

また,指示棒で指示しながら,オーラルテキストも読むのは,難しいので,その時は,下図のようにオーラルテキストを書いた紙をOHPに貼りつけてしまいます.

OHP

6.4.9 恐怖の質問

質問はいやなものですが,時には桜のような質問が出て嬉しくなってしまうこともあります.

  • 質問趣旨の確認
    大事なことは,質問の意図をきちんと捉えるということです.質問の意味が分からない時には,

    ただいまの御質問の意味は,○○でしょうか?

    と確認する必要があります.

  • 自分の考えと違う時
    『あなたは,こう言ったが,私はむしろこう思う』といような意見が出てきた時は,議論します.『はい,そうかもしれません』などと言って引っ込んではだめです.自分の意見を頑張って主張します.
    特に,こちらの主張を否定するような場合には,その主張の根拠を確認することです.常識的な人ならば,そのような質問をする場合には,かならず反証となるデータを持っているはずです.そのデータと自分のデータを比較して議論すればいいわけです.
  • ○○は可能ですか?
    また,良く出る『○○は可能ですか』というような質問に対しては,
    原理的に不可能
    ある条件の下で可能
    今後の拡張によって可能

    などを区別して言います.

  • わからない.知らない.
    趣旨が十分に確認できれば,全く答えられない質問と言うのはないはずですが,それでも十分なデータや知識がなくて分からない時は,素直に『よくわかりません』と言ってしまいます.

注:

  1. かといって,発表の間に卒論が回覧されますから,いい加減に書くと,一発でバレます.私たちは論文のプロですから,手抜き,捏造の類には敏感です.
  2. OHPを指す.

1.研究の意義2.卒業研究の進め方3.文献調査のしかた4.文書作成ツールの概要5.卒論の書き方6.卒論口頭発表のしかた

(Last Updated on 04-Oct-2004)